INDIE GAMES JOURNAL(インディーゲームジャーナル)

【レビュー】『レインドロップ・スプリンターズ』はプレイヤーを子ども時代に回帰させてくれる雨粒避けアクション。「水滴に当たったら負けな!」と、窓から手を出して遊んだ日々に再び熱中

by 松葉

 いつからだろうか、雨の日が憂鬱になったのは。雨音は嫌いではない。しかし特有の空気感が、脱力を誘うのだ。さらに、低気圧による不調を自覚したときには、もう雨などとは相容れないのだろうと諦念を得た気でいた。

 だが少年時代のある日はどうだっただろう。……小学生のころ、グラウンドに出られない昼休みに、降る雨を窓枠から眺めたことがある。傘も差さず、駆け回った記憶すらある。大きな雨粒に当たる感触が妙に心地よかった気がする。無邪気にも、雨を楽しんだ時期があったような。

 と、なぜだかセンチメンタルな気分になっているが、これは6月下旬から続く梅雨のせいだけではない。もっとポジティブな感情で……おそらく、『Raindrop Sprinters』(レインドロップ・スプリンターズ)を遊んだからに違いない。

子ども時代の遊びが、レトロ風ゲームに

 『レインドロップ・スプリンターズ』は、雨を避けて、星を集めながら渡り廊下を走り抜けるアクションゲームだ。フリーゲームとして開発された作品の、パワーアップ版。障害物を避け、スコアアイテムを取りつつ、ステージの端から端まで移動するだけのシンプルなゲーム性となっている。

 プレイヤーは、猫ちゃんの肉球(手のひら)を模した自機を操作する。行うのは左右の移動入力と、スローモーションを発動するボタンの押下のみと、非常に簡潔。スローモーションは画面下部のゲージが許す限り雨の動きを遅くできる。

▲冷たい雨粒に当たってしまうと、体温が下がって肉球が真っ青に(ゲームオーバー)。かわいい手のひらを守るために、それだけは避けねばならない。

 その縦長のゲーム画面に表示されるビジュアルとサウンド、それから両端に表示されるインストカードめいた操作・ルール説明は、いずれも80年代のアーケードゲームを彷彿とさせる。

 というのも、本作は開発者・Shuhei Miyazawa氏のルーツがふんだんに詰まった“オールドスクール”な雰囲気に包まれており、本人のブログによって、ナムコをはじめとした老舗メーカーの古き良き名作たちに影響を受けていることが明かされている(外部リンク)。それによるレトロさが特徴的だ。

 とはいえ筆者自身は80年代を生きた人間ではなく、当時の熱狂を体験していない後追いゲーマーである。そのため、本作のオールドスクールたる魅力については、正しく語る口を持たない。だが、本作が幅広い年代に刺さる優れた作品だということだけは、確信をもって言える。

 よって今回は、本作が題材にした“雨”という一点において、筆者がいたく感銘を受けたことを声高に伝えたい。

 それはある種、ゲームの原体験。なんでも遊びに昇華していた子ども時代の、極めてシンプルな遊びであって、どの世代でも一度は熱中した可能性のあるもの。

 本作をプレイしたとき、かつて降りしきる雨の日に友人たちと「当たったら負け!」「多くキャッチできた方が勝ちな!」などと、白熱の遊びに興じたことが鮮明に思い起こされた。

 グラウンドに出られずとも、制約のなかで楽しめるだけの遊びを生み出していた子ども時代。そのなかのひとつが、“雨粒を避ける”だけの遊びだったように思う。直接雨を避けるだけの身体能力は持ち合わせていなかったので、正確には“降雨によって建物の縁からしたたり落ちる雫を避ける”遊びだろうか。それが、ゲームで表現されている。

 学校のチャイムでおなじみの「キンコンカンコン♪」という音や、雨漏りの激しい渡り廊下の屋根(オールドスクールという表現はこの辺りにも掛かっているのだろう)も、より懐かしさを感じさせるエッセンスだ。

 ゲームとして優れている点では、屋根に打ち付ける雨の、“内側に浸透して徐々に水滴が大きくなる様子”までもが、細かくアニメーションで示される点が挙げられる。窓のふちの水滴を眺めて、「あーもうすぐ落ちてくるなあ」と思う何気ない感覚。これが、システム的には“落下地点の予告”として機能しているのが秀逸。このおかげで、予測を立てて自機を動かす楽しみがグッと深まっている。

 さらなる個人的お気に入りポイントが、雨粒をギリギリで避けると緑色のエフェクトと共にボーナスポイントが加算される点。そう、水滴はちょっとかするぐらいのギリギリで避けるのが楽しいのだ。このシステムを理解したとき、眠っていた少年心がうずいた。

 ほかにも、雨をただ避けるだけではなくて、逆に“雨粒を受けるとスコアが加算される”モードも用意されている。水滴を浴びるとスコアは上がるが体温は下がっていくので、良い塩梅でハート(HP回復的な)も取りにいかなければいけないのがミソだ。これもかつてやった遊びに似ている。手中に収めた一滴を、互いに見せ合った思い出。キャッチに飽き足らず全身で雨を受けに行く。雨に当たると体が冷えるゆえに、「風邪を引くぞ」と大人に叱られた記憶がある。

 「ひょっとすると、小学生時代に一緒に遊んだ友人が制作したのではないか?」という考えが頭をよぎったくらい、システムの端々に共感できる。ということは、“雨遊び”はそれだけ様々な世代で親しまれているものなのだろう。だから、幅広い年齢層のプレイヤーに確信をもってオススメできる。

 そうした、まるで“学校の休み時間”のようなプレイ体験が、このゲーム最大の魅力だ。一方で、ときおり窓に映る猫ちゃんたちの姿や、肉球を模した自機デザイン、雨と一緒に流れてくる星(スコアアイテム)など、多少のファンシーさが混ざることで、単純な視覚的楽しさもある。筆者のようにやんちゃではなかった子たちにも、楽しく映るのではなかろうか。

 現代においては、短いゲームサイクルも魅力のひとつと言える。1プレイに掛かる時間が短いため、わずかな隙間時間でもプレイできる。可処分時間が限られる昨今、オススメのゲームを人に勧めようにも、憚られる瞬間がある。そんな中、場合によっては数十秒でも事足りる本作は気兼ねなくオススメできるタイトルだ。

 そうは言いつつも、その中毒性には注意が必要。1プレイが短いからこそのリプレイ性の高さや、散りばめられた隠し要素が相まっていつの間にか時間が経っているのだ。熱中しているときは、スタート時にチャイムが鳴り響くのを待つわずか時間すら煩わしく感じてしまうほどに、次の走り出しを待ちわびている。自分に有利・不利なオプションを設定できるカスタマイズモードなど、飽きが来ないように味変要素も完備されているのだからタチが悪い。

▲安全地帯が増える傘や屋根を追加したり、横なぎの風や滑る床で自機の操作難度をあげたりできる。

 実際、筆者はこの原稿を書くために5分だけゲームを起動し、遊んだ後の納得感を持ち帰って執筆にあたる……ことを何回も繰り返している。記事のディティールは脳内で完璧に掴めたので、あと一回だけプレイしておこう。よし、もう一回だけ。


 まとめると、『レインドロップ・スプリンターズ』は、子どもの普遍的な遊びを80年代ナムコのアーケードゲームに落とし込み、簡単で熱中しやすい仕組みをひとつのレバーとひとつのボタンで実現。この“二重の懐かしさ”よって、ゲームセンターを愛するゲーマーはもちろん、あまねくプレイヤーを子ども時代に回帰させてくれるタイトルとなっている。

 なお昔のゲームコミュニティでは、こうしたシンプルなゲーム性の中でも、隠し要素を探すこと自体が楽しまれていたという。インターネットで調べればすぐに情報が出てくる便利な時代になって久しいが、偉大な先達にならって、自力で種々のボーナスポイントや隠しモードを探すのも一興だろう。80年代っていいな。

 そして、私にとっても本作は、そのゲーム性、ビジュアル、サウンドで、雨遊びが楽しかった少年時代を思い出させてくれた親しみやすい一作。

 なによりも、このゲームを初めて遊んだ日に雨と少し、仲直りできた気がする。

  • 商品名  Raindrop Sprinters(レインドロップ・スプリンターズ)
  • 開発   room_909
  • 販売   Mediascape
  • 配信日  2023年12月20日
  • 定価   1,200円(Steam)
  • 日本語  〇

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