シナジー型ローグライトの秀作『超増税都市』開発秘話 若きインディークリエイターに直撃インタビュー!

先日、当サイトでもライターの思い入れたっぷりにレビューさせてもらったSteam用ソフト『超増税都市』(2025年1月30日発売)。街作りとローグライトの要素が融合したゲームで、ランダム抽選で表示される施設から自分好みのものを選んで配置し、じゃんじゃんシナジーさせて爆増する税金の納付に対応する……というシステムになっている。

かわいらしいカジュアルな見た目ながら、ゲーム性、戦略性は抜群で、4月22日現在のSteamレビューの評価も「非常に好評」で推移している。
そんな『超増税都市』を開発したのは、ゲーム系専門学校の同級生という3人組の若者でありました。そこから今回は、開発のメインを務めた“のっぽ”さんと、その相方としてさまざまな分野でサポートを行っている“Shuka”さんに登場いただき、これまでのゲーム遍歴や『超増税都市』の開発秘話などを話してもらったぞ!!
(聞き手・文:大塚角満)

いかにも青春な開発現場で
――おふたりはチームで活動されているということですが、可能な範囲で経歴を教えてもらえますでしょうか。
のっぽ わかりました。まず僕が、このチームでメインを務めている“のっぽ”と申します。ゲーム制作を始めたのは高校生のころで、独学でプログラミングの勉強を始めました。それが思いのほか楽しくて専門学校に進学し、本格的にゲーム作りを学び始めます。卒業後にゲーム開発会社に就職することができ、そこから2社で業務をしたのちに独立して、現在は専業でインディーゲームの制作を行っています。
――開発会社では、プログラマーを?
のっぽ はい。プログラマーをやっていました。
――そして経験を積んで、独立を。
のっぽ じつは“独立”というほどかっこいいものでもなく、会社に所属して働くことにしんどさを感じて、退職したのが真相なんです。でも、辞めたところでモノ作りへの興味を失ったわけではなかったので、「なんか作ってみるか」ってことでインディーゲームを作り始めたわけです。
――では、相方の“Shuka”(しゅか)さんとの関係は?
Shuka 専門学校の同級生で、同い年です。
――Shukaさんの経歴も可能な範囲で教えてください。
Shuka のっぽとほぼ同じかもしれないです。ゲームに興味を持ったきっかけはニンテンドーDS用ソフトの『メイドイン俺』というミニゲーム集で、それにハマった結果、「ゲームを作るのもおもしろいかも」と思いました。で、じつは親戚にゲームのプランナーをされている方がいたこともあって、ゲームクリエイターという仕事を身近に感じてもいたんです。中学生のときにすでに「ゲームを作りたいな」と思い始めていて、高校は情報系の工業高校を選びました。
――ほーーー!
Shuka そして、高校を卒業したのちにのっぽと同じ専門学校に入って、ゲーム作りを本格化させていったわけです。現在は都内のゲーム会社でプログラマーをしていて、のっぽがメインで作っているインディーゲームでは“サポート”という形で制作に参画しています。
――なるほど、ふたりともプログラマーなのは強そうだな……。で、現在は3人で活動をされていると?
のっぽ はい。もうひとりも専門学校の同級生で、『超増税都市』ではデザインを担当してもらいました。
――同級生3人で集まってモノ作り……って、青春って感じがするなーーー。
のっぽ ああ、そうですね。遅くに始まった青春……と、自分でも思います(笑)。
――いやあ、うらやましいですよ。いいトシになると同級生と集まること自体がなくなるし、ましてやいっしょの目標に向かって活動するなんて、ちょっと考えられないから……。
Shuka あ、でもわかります。僕ら3人がむしろ特殊で、他の同級生たちはそんなことしていませんから。

――これ、集まるようになったきっかけはのっぽさんの声掛け?
のっぽ いや、じつは最初は別々に活動していたんです。僕が個人で活動を始めたころ、Shukaは別の同級生とゲーム作りしていて、話をよく聞いていました。で、「ちょっといっしょにやってみる?」と誘われてShukaのチームに加わってみたんですが、他のメンバーとモチベーションに差があることに気付いて、解散しちゃうんです。
――バンドみたいな話だなあ。
のっぽ あ、まさに音楽性の違いで解散……てのと同じだと思います(笑)。そこから、我々ふたりで活動をするようになりました。
Shuka そうですね。僕は会社でもプログラマーをしていますけど、個人でも好きなように作りたくて、専門学校卒業後に何人かとチームで活動をしていたんです。でも、ゲーム制作における方向性がどうしても合わず、次第にフェードアウトしていった感じで。とはいえ、いまでも同期連中とはめちゃくちゃ仲がいいんですけど(笑)。
――へーーー!
のっぽ 僕らだけインディーメインで活動をしていて、ほかの同級生はゲーム会社で働いています。たまたまShukaとは、やりたいことの方向性が合致して、いまでもいっしょに作っているという流れになります。
――おふたりは、ゲームの好みも似ている?
のっぽ あ、そうですね! 『幸運の大家様』とか、ローグライク系の作品はふたりとも大好きです。
――じゃあ、おふたりのゲーム遍歴も聞きたいです。最初にハマったゲームってどのあたりですか?
のっぽ 特定のゲームというより、スーパーファミコン、初代プレイステーション、ゲームボーイあたりで、いろいろなゲームに触れてきました。
――でものっぽさん、20代半ばでしょう? それらのハードは世代的には古くないですか?
のっぽ 僕、兄がいるんですがけっこう歳が離れていて、ちょっと前のハードも揃っていたんです。
――あ、そういうことか! では、Shukaさんは?
Shuka 物心ついて、最初の印象として残っているゲーム体験は、初代プレイステーションの『XI[sái]』(サイ)というゲームです。サイコロを使ったパズルゲームですけど、これが本当に好きでずっと遊んでいました。
――『サイ』!! 懐かしい! もうそのころにはファミ通でバリバリ働いてたわ~(笑)。いやでも、ふたりくらいの年代だとむしろ、AAAのシューターとかにハマっているんじゃないかと思いましたわ。
Shuka あー。確かに、僕らはローグとかレトロゲーが好きですけど、同世代と話していると「あれ?」と思うことはよくあります。ローグライクで遊んでいる友だちって、あまりいませんし。
のっぽ でも、僕らの世代はニンテンドーDSの全盛期なので、グラフィックがめちゃくちゃスゴいゲームばかり遊んでいたかというと、決してそんなこともないんです。
――確かに! DSとか3DSでもっとも遊んでいた世代ですもんね。
のっぽ はい。ですのでドット絵のゲームとかも、めちゃくちゃ馴染みがあります。
――じゃあ、いちばんハマったゲームは?
Shuka 自分は『ぷよぷよ』シリーズです。
――『ぷよぷよ』! ……なるほど、『超増税都市』を見るとそれほど意外じゃない気がするな。
Shuka あ、ホントですか?(笑)
――はい。1画面で収まるゲーム性とか、どこか通じるものがある気がしなくもないですね。
Shuka 言われてみると確かに、昔のゲームって1画面で完結しているものが多いですもんね。
――じゃあ、のっぽさんは?
のっぽ さっきも言った通り、“これにハマった!”という体験があまりないんです。Shukaの言った『ぷよぷよ』も好きでしたし、みんなでワイワイ楽しむパーティーゲームも遊びますけど、そこまでやり込む感じではないですねー。唯一、ローグライクはジャンルとして惹かれていますけど、これも社会人になってから「いいな」と思って遊び始めた感じなんです。

――わかりました! ではいよいよ、おふたりが作られた『超増税都市』についてお聞きします。まず、開発のきっかけを教えてください。
のっぽ 一時期、僕は『幸運の大家様』にハマっていたんですけど、当時はこういうデザインのゲームってほとんど見かけなかったんです。でもそのゲーム性がすばらしかったので、「このジャンル、もしかしてイケるんじゃ?」と思い、作ってみることにしました。
――それが、企画の走りなんですね。
のっぽ はい。でも、有料でゲームを出すのは初めてで、Steamがどんな市場なのかぜんぜんわからなかったので、せめてゲームタイトルはインパクトがあるものにしようと『超増税都市』と名付けました。
――ゲームの中身は、のっぽさんが考えて?
のっぽ いや、ふたりでアレコレと話しながら少しずつ構築していった感じです。もう、毎日のようにブレストをしていた記憶があります。

――じゃあShukaさんは、『超増税都市』のコンセプトを聞いたときはどう思われたんですか?
Shuka じつはそのころ、僕のほうは『幸運の大家様』をプレイしていなかったんです。なのでのっぽに話を聞いてから調べ始めたんですけど、確かにこのジャンルのゲームってほとんどないな……と気づいて。いまのインディーゲーム業界って“〇〇ライク”と言われるものが多いですけど、“幸運の大家様ライク”というゲームはまったくと言っていいほど見かけませんでした。なので、「いまだったらいけるかも!」と思ったんです。
――僕も、『幸運の大家様』は発売後すぐにプレイしましたけど、エポックメイキングなゲームでしたねえ。プレイヤーの選択によってがんがんシナジーが生まれていく……というアイデアを基に構築されていますけど、インディーゲームだからこその良作だと思いました。
のっぽ あそこまで手軽に遊ばせるゲーム性がすばらしいんですよね。でも『幸運の大家様』はカジュアルゆえに、パネルを取っていくだけなのでデッキ構築の戦略性はそこまで深くないと思ったんです。攻略法を覚えたら、それを取るだけの作業になってしまうというか。ここにアイデアを加える余地があると思って、もっとパズル的な要素も付けていこうかと考えた次第です。
――なるほどなるほど! で、実際の制作ですけど、おふたりはプログラマーだから、プログラムも分業で?
のっぽ ほとんど僕が作って、Shukaにちょいちょい手直しをしてもらう……という感じです。
Shuka 細かいところ……一部のUIとか音声の処理とか、分担できるところで僕が手を入れていった形ですね。メインのところは、ほぼのっぽ任せです。
――そして、グラフィック部分はもうひとりの仲間も活躍されて。
のっぽ はい。僕が仮素材として描いたものを渡して、「これ、いい感じにお願いします」みたいな感じで(笑)。

――音楽に関しては?
Shuka 基本的にフリー素材を使っているんですけど、なるべく統一感を持たせたかったので、同じサイトにある素材を使うように意識はしていました。それらを、僕がたまたま音声を加工できるソフトを持っていたので、音の高低を調整したり、なるべく聴きやすくなるように整えていきました。
――なるほどーーー。……僕はこの業界の記者を30年くらいしていて、無数のゲームクリエイターの話を聞いてきましたけど、大会社になればなるほど分業制が定着していて、なんでもかんでも自分の手で作る……というファミコン時代のゲーム作りとはかけ離れてきていることを聞かされるんです。いま皆さんがやってることって、言ってみればそういう時代のモノ作りへの原点回帰ですよね。
Shuka あ、まさにそうだと思います。
のっぽ もしも僕が大きなゲーム会社にいて、我々のやっているようなことを傍から眺めたら、「あいつらなんかおもしろそうなことしてるなー」って感じたと思います。
――たいへんなこともあるでしょうけど、モチベーション的には充実しているでしょうね。
のっぽ おっしゃる通りで、モノ作りへのモチベーションは会社で働いていたときとは段違いです。
――この『超増税都市』、制作期間はどれくらいに?
のっぽ 約1年ですね。
――振り返ってみて、その1年はたいへんでしたか?
のっぽ 制作の最後のほう……ラスト2ヵ月くらいはかなり詰め込んでいて、休んだのは1日だけだったような気がします。
――それは、発売日を決めちゃっていたから?
のっぽ そうですね。「この期間には出したい」という目標があったので、それには間に合うように追い込んでいった感じです。
――Shukaさん、振り返ってみていかがですか?
Shuka 3ヵ月単位で波が来たんです。めちゃくちゃ忙しい→凪→めちゃくちゃ忙しい→凪……みたいな感じで(笑)。
――はいはい……(笑)。では、とくにたいへんだったのはどのあたりに?
のっぽ 制作全般については……作りきれる自信はあったので、特筆してたいへんだったことはないと思います。それよりもマーケティングとか、イベントへの出展とかは経験がなかったので、戸惑いが多かったです。あと、体験版を配信したあとに日本のみならず海外のプレイヤーからもいろいろな反応が届いたんですね。それを受けてどう改善していくのか、ユーザーが納得する形に収めていくのか……という部分については、かなり時間をかけて悩みました。
――フィードバックをすべて受け入れて採用したら、めちゃくちゃになっちゃうでしょうしね。
のっぽ そうなんです。体験版のバランスで楽しんでくれている人も多かったし、逆に「これじゃダメ」と言ってくれる人もいるわけです。そこでどう折り合いをつけるかが問題で、考えに考えていた結果、見込みよりも時間がかかって最後の追い込みがヤバくなりました(笑)。
Shuka けっこう大きな仕様変更もありましたしね。
――それをよくまとめあげましたね!
のっぽ はい、何とかなりました。

――じゃあ、いまは達成感に浸っている感じ?
のっぽ いったんは、そうですね。ちょっと浸っていたと思います。
――Shukaさんは会社員の仕事と掛け持ちなわけですけど、時間の割り振りがたいへんだったんじゃないですか?
Shuka そうですねー。通勤の行き帰りで電車の中でPCを開いて、スプレッドシートに仕様を書き込んだりしていましたし、お昼休みもDiscordにへばりついて、のっぽとあーでもないこーでもないと『超増税都市』について話していました(笑)。後半は本当に、1日中開発状態だったと思います。
――それでも、苦労よりも充実感のほうが勝ってる?
Shuka そうですね! 終わってみれば……ではあるんですけど、いまいい結果になっているので、かなり報われている気がします。「走り切ってよかった!」って。結果論なんですけどね。
――『超増税都市』、評価も高いですもんね!
のっぽ ありがとうございます。ひとまず、安心しました。
――グラフィック担当の方も喜んでいるのでは?
のっぽ はい。振り返ると、最後のほうはドット絵を3日で80個とか描いてもらっていたので、喜びもひとしおだったと思います。
Shuka 実作業は20日くらいだったと思いますけど、めちゃくちゃ圧縮されているんです(笑)。
――あのパネルも、ひとつひとつドットで描いてるんですよね?
のっぽ そうですそうです。手が早い子なので、なんとかその時間で収まった感じですね。

――いやあ、よく1年でこれだけのゲームを作ったなあ。
のっぽ 3年から5年くらいかけて作っているインディークリエイターも多いですもんね。でも僕は逆に、それだけの時間をかけることが無理だと思うんです。資金的にもそうですけど、作っている自分のゲームに飽きちゃうので、長くても2年が限界かなって思っています。それくらいのスパンで作れるものを出していかないと、もしも売り上げが立たなかった場合は一瞬で終了になっちゃうので、今後も計画的に、短いスパンで出していきたいと考えています。
――あ、それはよくわかります。長期の開発になると、自分が作っているモノがおもしろいのかつまらないのか、さっぱりわからなくなっちゃうと。
のっぽ はい。この1年でもそういう波がありましたから。僕はわりとそういうことを考えるタイプで、3ヵ月おきくらいに、「これ、ホントにおもしろいのかな!?」って騒ぎだすんです(苦笑)。
一同 (爆笑)
のっぽ でも、実際におもしろくなかったときだったので、そこから調整に調整をして……。ということが3回くらいあって、最終的に「これならおもしろいわ」と納得して公開したわけです。
――クリエイターならではの苦悩なんだろうなあ。
のっぽ 頭の中で考えているときって妄想で補完しているので、脳内では「めっちゃおもしろい!」ってなるんです。でも、いざアウトプットしてプレイしてみると、「な、なんやこれ?」と呆然とすることが多くて……(苦笑)。
――そんな『超増税都市』への反響も届いていると思いますが。
のっぽ 想像以上に日本のゲームファンが反応してくれました。ゲーム実況をやられている方とかがプレイしてくれて、そこから「おもしろそう」と広まっていったのはありがたかったです。
Shuka ゲームのジャンル的に海外受けがいいと思っていたんです。でも、いまのっぽが言った通り現状では日本のユーザーのほうに刺さっているので、まだまだリーチができていないなと感じています。レビュー自体は悪くないので、ここからのプロモーション次第かなと。振り返ってみてうれしかったのが、同じようなジャンルのゲームを開発している方から、「おもしろい!」、「実績コンプしました!」なんて連絡をいただけたことです。僕らは、本当に自分たちの作りたいゲームを作っただけですけど、それが同業者の方々に届いたことは、何にも増してうれしかったですね。
――リリース後に、心境の変化とかはありますか?
のっぽ 発売直後はフワフワしていて、反響を見ては一喜一憂していました。でもいま、ちょっと冷静になって考えて思ったのは、「これで次回作の開発も進められるぞ」でしたね。
――あーーーー!! なるほどーー!!
のっぽ なんだかんだ、それがいちばんうれしいことだったと思います。
――Shukaさんは?
Shuka 先ほど話した3ヵ月ごとの波じゃないですけど、いまは落ち着いていますが、またすぐに忙しくなって……というサイクルが始まるんだろうなと思います。そうなってよかったな、って。
――現実問題として、開発費の回収はもちろんですけど、未来につなげるための資金も稼がないといけないですもんね。
のっぽ 本当にその通りで、ひとまずつぎの作品作りには打って出られるので、本当によかったなと胸をなでおろしています。
――次回作の構想は?
のっぽ すでにいろいろと練っています。またローグライクを作ろうと話していますけど、インディーゲームの開発支援プログラムがいろいろと出てきたので、それに応募できるようになるべく早い段階で形にしたいなとは思っています。
――確かに、インディーゲームの開発環境も変わってきていますもんね。ではつぎの作品も、集中力が保てる1年以内くらいに?
のっぽ はい。長くても2年以内に収めたいです。課題としてマーケティングがあるので、今後はパブリッシャーに相談したりとか、開発以外のところもがんばっていきたいと考えています。
――わかりました! 次回作にも期待しております!
のっぽ・Shuka ありがとうございましたーーー!!
- タイトル: 超増税都市
- 開発元: soramame-koubou
- パブリッシャー: KIC Games
- リリース日: 2025年1月30日
- 価格:¥1,100