INDIE GAMES JOURNAL(インディーゲームジャーナル)

【レビュー】『パーリィナイトメア』毎日を生きる人間は、なんと尊いことか。魂がアツくなる“パリィ”アクションに勇気を貰った忘れられない一夜

by 松葉

2024.8.1 14:45 | 更新

 最後に夢を見たのはいつ?明晰夢を見たことは?良い夢だったか、悪い夢だったか。それらは仮に見ていたとして、覚えていないことがほとんどだろう。深夜に原稿を書きながら、そう考えている。

 でも、もしも。自分の無意識が、夜な夜な悪夢を追い払ってくれているとしたら?

 そんな楽しい示唆を与えてくれたゲームが、本稿でレビューする『パーリィナイトメア』だ。

 苦しいこと、辛いことが尽きない世の中で、それでも明日を生きることができるのは何故だろう。

 それは、あなたを守るために、夢の中で大立ち回りを演じてくれている存在がいるからかもしれない。そして、あなた自身も忘れているだけで、あなたはいつも頑張っている。これはきっと、ささやかな人間賛歌の作品だ。

忘れられないパーリナイ

 『パーリィナイトメア』は、タイトルにも見られるとおり、“パリィ”に特化した見下ろし型のアクションゲーム。操作は移動とふたつのボタンで完結し、ステージクリア方式+幕間のテキストで進行するシンプルな構成となっている。

 プレイヤーは、悪夢(ナイトメア)に囚われた主人公となって、分身である“タマシイ”を操作。ここで特徴的なのは、もうひとりの分身である“ホンノウちゃん”がバディとして行動を共にする点だ。ふたりは防御と攻撃を分担して敵を倒し、光を集めて闇を払い、悪夢からの脱出を目指す。暗く始まるステージが徐々に明るくなっていく演出が、優れたサウンドと相まってまさに“パーリィ”といった趣。

▲画面中央の青白い炎のようなものが、タマシイ(自機)。ギザ歯の女の子がホンノウちゃんだ。

 タマシイ(=プレイヤー)ができることは、押し寄せる敵を弾く“パリィ”と、テンションゲージが最大まで溜まった状態でのバースト技“テンション解放”。バースト技は広範囲の敵を一気に気絶させる強力な行動となる。ゲージは、パリィを連鎖させていくことでどんどん溜まっていく。このテンションゲージは敵の攻撃を受けてゼロになるとステージ終了になってしまうので、体力と必殺技ゲージが一体となったシステムと言える。

▲パリィを失敗したときも、テンションが下がる。

 重要なのは、タマシイの行動では敵を“倒す”ことができないこと。気絶させた敵を倒す役割は、ホンノウちゃんが担う。ホンノウちゃんはプレイヤーが制御することができず、独自に動く。攻撃は彼女に任せて、プレイヤーはパリィに集中することができる仕組みだ。

 また、ホンノウちゃんはステージ中に登場するパワーアップアイテムを取得することによって攻撃を強化可能。アイテム取得後は姿が変化し、行動のパターンも変わる。どのスタイルが戦いやすいか、プレイヤーに選択が委ねられる。

 なお敵は基本的にタマシイを狙うが、唯一、ホンノウちゃんを狙う特殊な敵も登場。この敵が登場したときはアラートが鳴るので、ホンノウちゃんを守るようにパリィする必要があり、プレイのアクセントとして機能している。

 そして、『パーリィナイトメア』の最終目的は悪夢からの脱出……つまり目覚めだ。ゲームの進行によって解放される各ステージ(ナイトメア)をプレイすることで、徐々に時計の針が進んでいく。これを繰り返し、無事に朝を迎えることができればゲームクリアとなる。

 この時計は、ステージ挑戦中にいつやられてしまっても、集めた光に応じて針が進むのが面白い仕様。後半のステージはなかなかに骨太だが、何度も繰り返すことでいつかはクリアできるし、前のステージに戻ってもゲームを進行させられるようになっている(後者はアップデートにより追加)。

 さて、ゲームの軸にある“パリィ”について。この要素は、パリィゲーフリークな筆者が本作をプレイするに至った、たったひとつの理由だ。

 本作におけるパリィは、シューティングジャンルで見られる(もっと言えば『東方Project』に代表される)、いわば“喰らいボム”をマイルドにしたプレイ感である。登場する敵は『ヴァンサバ』めいて大量に、プレイヤーへと迫りくる。ただ、攻撃モーションがあるわけではなく、パリィの要件は“タマシイの一定範囲に敵がいること”のみ。基本的にダメージを受ける状況は敵の体当たりであることから、敵は一種の弾幕のような感覚だ。

 パリィの楽しさは“”敵の攻撃を見極めてギリギリで捌く”だと考える筆者の観点では、本作にほとんど攻撃モーションが存在しないことが、“パリィ(受け流し)らしさ”を感じない部分として映る。

 一方で、本作は要素を単純化して“パリィをひたすら連鎖させる”遊びに重きを置いている。密度の高い大量の敵によってボタンを押す機会が多く、インタラクティブな楽しみが連続する。好きか嫌いかで言えば、かなり好きだ。

 そして、パリィ目的で遊び始めた筆者は……いつの間にか本作がつくり出す世界観の虜になっていた。

ホンノウちゃんの言葉に耳を傾けて

 『パーリィナイトメア』の真に優れているところは、世界観・設定とシステムが融和したゲームデザインにある。その作品性こそが、大きな魅力として推せるものになっている。

 本作の主人公は、繊細な女性だ。過去にたくさん傷つき、克服できぬトラウマを内に抱えながら現代社会を生きている。

 物語は、そんな彼女が明晰夢(“これは夢だ”と自覚しながら見る夢)を見た一夜の出来事を描く。夢のなかで物思いにふけっていると、ささいなことがトリガーとなって、嫌な思い出が蘇る。そして悪夢を見る。

▲部屋内のアイテムを調べることで、テキストが表示。そのうちの“何か”がトリガーとなり、悪夢(ナイトメア)のステージが出現する。

 そうした悪夢たちを払い、朝を迎えるために戦う存在が、ふたつ。哲学的な概念には明るくないが、本作の明確な登場人物はひとりながら、肉体から“魂”と“本能”(精神とも読み取れる)がそれぞれ具現化している。

 タマシイは、とても受動的な存在だ。身を守る行動(パリィ)を取り、その成功体験をもってテンションを保っている。外部の影響によって傷つきやすく、ダメージを受けると“死ぬほど”テンションが下がってしまう。前述したパリィ論だが、パリィとはそもそも、“受け流す”の意だと考えてみると、これほどタマシイに似合う言葉はないだろう。

 また、特筆すべきは、成功体験によって上がるテンションは少しずつなのに、食らったときの下がり幅は顕著なところだ。まるで、褒められた記憶は徐々に薄れてしまっているのに、失敗の記憶は焼き付いていつまでも忘れられない筆者のようだ、と思った。

 おそらくタマシイは主人公の意識の部分に近く、リンクしている。だから、同じ現代人である筆者は主人公の思考にもとても共感できるのだろう。すべてに共感するというわけではないものの、電話は苦手だし、明日やれることは後回しにしてしまうし。幼少期に親から隠れてこっそりとゲームをした記憶も、確かに所持している。

 だとすると、一方のホンノウちゃんは、無意識的な存在かもしれない。悪夢を蹴散らすアグレッシブさを持つ。能動的で、カラっとした性格でタマシイを励まし、気分によってさまざまな姿に変身できる。現実に疲弊した主人公のささやかな楽しみである食事の思い出によって、夢の中で強化されるところは面白い点だ。

 主人公やタマシイとはあまりに対照的だが、彼女もまた、主人公の分身だと考えると非常に想像力が働く。理想の姿か、生きる内に忘れてしまった本来の姿なのか。あらゆる可能性があるが、本能として、主人公が生きるために勝手に奮闘してくれる。自分にもホンノウがいるのだとすれば、ときおり湧いてくる根拠のない自信などは、内から囁いてくれているということなのだろうか。

 そうした彼女たちを襲うのは、過去から現在までのいたるところで遭遇したストレッサーや悪意、嫌な思い出を具現化した存在たち。とくに理不尽なトラウマは、ゲーム内ではいわゆるボス敵として登場し、タマシイをより苦しめる。

 その理不尽さはゲームバランスにもあらわれており、深い傷ほど容赦ない攻撃を浴びせてくる。あっという間にテンションダダ下がりのその様は、ゲーム的には粗のようにも感じるが演出としては優れており、ゲーム体験を印象的なものにしている。前述のクリア仕様によって、完全に攻略できなかったとしてもゲームを進めることが出来るから、納得感もある。

 そう、いか様にしても朝を迎えることはできるのだ。絶対にトラウマを克服しなければいけないなんてことはなく。ただ立ち向かった尊さのみが、時計の針を進めてくれる。筆者はプレイを通してそう感じ、胸を打たれた。

 ブチ上がるけど積極的な問題解決はしない。パーリィのようだけど壮大なことは起きない。だからこそ、ラストのホンノウちゃんから向けられるメッセージも響く。プレイヤー自身が、身近な事として受け取ることができる。

 忘却もまた、人間の本能。毎晩のように悪夢と戦う記憶なんて、ない方がいいだろう。だけど今夜、あの言葉ひとつだけは忘れずに朝を迎えよう。そうすれば、これからも大変だけどきっと大丈夫。そんな、勇気をもらえる読後感だった。

 そして現在、朝日を浴びながら得た気づきがもうひとつあった。ちゃんと夜に睡眠をとることは、とても大事。

 というわけで、ホンノウのおもむくままに、血走った目でレビューした本作のプレイボリュームは2~4時間ほど。一晩あればクリアできるのでぜひ、エンディングまで迎えてみてほしい。刺さりすぎる人には一部の描写自体がトリガーみたいになってしまうかもしれないけれど、可能ならホンノウちゃんの言葉に、耳を傾けてみてほしい。今を生きる人たちへの応援歌が聴こえてくると思うから。

  • 商品名  パーリィナイトメア
  • 開発   KAKUKAKU GAMES
  • 販売   Phoenixx
  • 配信日  2024年3月22日
  • 定価   880円(Steam)
  • 日本語  〇
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